エコチューニング技術者資格認定制度で次世代の技術者へ! ~後編~
2022/06/22 15:00 更新
設備機器・システムの適切な運用への改善によって建物の“エコノミー&エコロジー”を支援する、環境省の「エコチューニング技術者資格認定制度」。前編ではその概要と、脱炭素の取り組みが求められる背景について紹介しました。後編では、引き続きエコチューニング技術者資格認定部会委員長である柳井崇さんに、資格取得で得られる力や将来的なメリットについてお聞きしていきます。
エコチューニング技術者資格を通じて得られるもの
――前編でお聞きした環境への意識の変化だけでなく、近年では、コロナ禍による“新様式”の誕生により建物の使われ方にも大きな変化が生まれました。
コロナ禍において多くの建物では換気を十分にしながら、快適な環境を保ち、かつ脱炭素も実現しなければならないという新たな課題が生まれました。また災害など緊急事態におけるBCP(事業継続計画)にも建築物の運用体制は重要な役割を占めますし、今後はロシア・ウクライナ情勢をきっかけとする石油や天然ガスの価格の高騰で、エネルギーコスト管理の重要性が高まって来るでしょう。これらはすべて建物の運用に、そして「エコチューニング」に大きく関連するものです。
すでに大企業などは脱炭素への取り組みを強く進めています。これからは中小規模の建物も含めて、ビルオーナーや自治体など、発注側の意識の向上とともに、エコチューニング技術者の活躍の舞台がさらに広がっていくでしょう。
――そのような状況で、エコチューニング技術者資格を取得すること、またそこで得られる知識はどのように活きてくるのでしょうか。
脱炭素を実現するひとつの鍵となるのが、電気・照明・給排水・空調など、複数の分野を横断して考え、連動して取り組むことです。そこでエコチューニング技術者資格の講習会では、コージェネレーション※1やBEMS※2といった専門的な知識に加え、各管理分野の基礎知識も幅広く学べるカリキュラムを設定しています。
「エコチューニング」の考え方、新しい分野である再生可能エネルギーなどの知識が身につくだけでなく、たとえばこれまで空調管理を専門としていた人が、電気・照明分野の管理について学ぶなど、自身の職域を広げる機会にもなるので、技術者としてのステップアップにもつながります。ビル設備やエネルギー管理に関する幅広い領域の知識が得られる内容ですので、たとえば現場経験の浅い社員に対する社員教育や研修の一環として資格取得を活用するのも効果的かもしれません。特に第二種については、ビルの設備管理の実務経験3年、もしくは特定の資格※3を持っていれば実務経験1年で受験できるので、若い方達にぜひ挑戦してもらいたいですね。
※1コージェネレーション:熱電併給とも呼ばれるもので、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムのこと
※2BEMS:ビル・エネルギーマネジメントシステム。ビル内の空調・照明・換気等の稼働状況やエネルギー消費、ビル内の室内環境などを可視化する管理システムのこと。データの修正や分析にも活用される
※3:①技術士(建設、電気電子、機械、衛生工学)②エネルギー管理士③建築設備士④電気主任技術者⑤ボイラー技士(特級、一級)⑥冷凍機械責任者(第一種、第二種)⑦建築物環境衛生管理技術者⑧1級ビル設備管理技能士⑨設備設計一級建築士
組織と技術者、それぞれの成長の機会として
――幅広い学びの一方で、自分の専門分野以外が含まれるとなると、勉強で苦労することもあるのかなと思ってしまいますが。
決して幅広い分野の知識すべてを暗記する必要はありません。「エコチューニング」に求められる考え方、再生可能エネルギーなどの最新の知識、そして電気・照明・給排水・空調といった各領域がお互いに影響し合っている状況を理解し、各領域を俯瞰した上でビル全体でのエネルギー管理を考える視点に気付いてもらうことを重視しています。修了試験もテキストを見ながら回答する形式ですので、講習を通じて、テキストのどこにどのような内容が記載されているかを理解して、基礎的な知識を広く身につけることが対策につながるはずです。
なお第一種では、仮の管理施設を課題として、1年間にわたる「エコチューニング実践計画書」を作成する実技試験が課されます。ここで身に付くのは、学んだ各分野の知識を計画として組み上げ、発注者の合意を得ながら、実践へと落とし込んでいくためのプロセスをつくる力です。「エコチューニング」を自社のビジネスに反映させるための考え方とスキルを獲得することができます。
――世界的に環境配慮の機運が高まり、それがビジネスに直結する時代です。ビルの所有者だけでなく、管理・運営を担う側にも「ビル経営の視点での環境配慮」を考え、実行する力が求められていると感じます。
たとえば発注者側やビルを利用する企業が、いざ脱炭素などに取り組もうとした時、当然管理者側にも、それを実行する力が求められます。そこでは「できない」では済まされない事象も出てくるかもしれません。その時になって焦るのではなく、いまから早めの準備を進めておけば、会社として、現場の技術者として、脱炭素に貢献できる存在なんだとアドバンテージを発揮できる機会も生まれてくるでしょう。
さらに資格取得は技術者としての成長を叶えるだけではありません。地球全体の課題であるSDGs等の環境問題に業務を通して実際に関われることは、日々の仕事の大きなやりがいにもつながるはずです。組織のビジネスを考える中で、現場の技術者としてのステップアップを見据える中で、この「エコチューニング技術者資格認定制度」をより良い機会として考えてほしいと思います。
エコチューニング技術者資格認定部会委員長
柳井 崇 氏
オフィス関連の環境・設備設計監理・省エネ関連のコンサルティング業務に従事。建築物の省エネの研究・普及活動に取り組み、環境関連の賞を数多く受賞。エコチューニング技術者資格認定部会委員長のほか、経済産業省ZEBロードマップフォローアップ委員会委員、建築設備技術協会の副会長などを務める。
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