社会保険適用範囲拡大が目前! 対象となるビルメンテナンス企業の 留意点や備えるべきポイントについて解説
2022/09/22 17:00 更新
社会保険の適用範囲が拡大され、これまで健康保険・厚生年金保険に加入していなかった500人以下の企業における短時間労働者の一部も、来る10月1日から社会保険の加入が必須となります。
2年前の制度法成立時からアナウンスされているため、対象となる企業は手続きを進めていると想定されるものの、昨今のコロナ禍に加え材料費や燃料費の高騰などもあり、企業経営に大きな影響を及ぼしかねません。
そこで、改めて制度の改正ポイント、従業員の社会保険加入の要件、人事担当者がすべき対応や企業に対する支援などについて、厚生労働省年金局年金課若林健吾年金課長に伺いました。
―― 改めて、社会保険適用範囲拡大の概要についてお聞かせください。
若林 2016年から、501人以上の企業において、一定の要件を満たす短時間労働者の社会保険の加入を義務化しています。2020年に成立した年金制度改正法では、この企業規模要件を、2022年10月から101人以上の企業、2024年10月から51人以上の企業に引き下げることとし、徐々に適用範囲を拡大しながら該当企業の方々にご準備いただいてきました。
社会保険の適用拡大の背景にあるのは働き方の多様化です。パートやアルバイトといった短時間での働き方をしている方々への保障を確保し、働き方に中立的な制度の実現を目的に実施しています。
社会保険適用範囲拡大の対象となる短時間労働者の要件は次の通りです。
・週の所定労働時間が20時間以上であること
・賃金が月額8.8万円(年収106万円相当)以上であること
・継続して2ヶ月を超えて使用される見込みであること
・学生ではないこと
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現行 |
2022年10月~ |
2024年10月~ |
労働時間 |
週の所定労働時間が |
変更なし |
変更なし |
賃金 |
月額8万8000円以上 |
変更なし |
変更なし |
勤務期間 |
継続して1年以上 |
継続して2か月を超えて |
継続して2か月を超えて |
適用除外 |
学生ではないこと |
変更なし |
変更なし |
―― 雇用されている従業員としては、保険料の一部自己負担分はあるものの健康保険の保障や将来の年金の上乗せといった安心が得られるというメリットを感じられます。一方で企業側は、加入する従業員が増えれば当然負担する社会保険料が増加するといった影響もあります。
若林 「負担が気になる」という企業に対しての支援も準備しており、まず企業の保険料負担増については、短時間労働者の方が新たに社会保険に加入するタイミングで労働時間を延長した場合などには「キャリアアップ助成金」が申請可能です。また、中小企業の生産性向上を継続的に支援する「中小企業生産性革命推進事業」もございます。
加えて「専門家活用支援事業」(下記)を行っております。社会保険労務士を企業に派遣させていただき、対応方針の検討、説明、手続きのサポートやアドバイスなどを無料で活用いただけますのでお近くの年金事務所にお問い合わせください。
大切なことは、適用した場合にはどんな変化があるのか、何をする必要が生じるのか、活用できるサポートはあるのかという見通しが立つことだと思いますので、ここで紹介した内容をぜひ活用していただきたいです。
お申込みについては、まずは管轄の年金事務所へお電話ください。
《管轄の年金事務所一覧》
※年金事務所の電話番号はこちらから確認できます。
―― 今年から101人以上の企業が適用になることで、業界や事業者から反応などはありましたか?
若林 社会保険の適用要件見直し前は議論もありましたが、それ以降は企業様のご理解、専門家の方々のお力添えなどもあり、トラブルや混乱もなくスムーズに進行している印象です。
ビルメンテナンス業界はもちろん、同じように短時間労働の方などが多い業界にも意見を聞かせていただきましたが、ご理解いただいた上でご準備を進めていただいていると受け取っています。
―― 対象企業の多くは手続きを行っていると思いますが、「準備が遅れている」「対象となっているか不明だ」といった企業の場合はどうしたらいいでしょうか?
若林 間違いなく該当するであろう企業、または該当する可能性が高い企業に関しては、日本年金機構よりすでにご案内を送らせていただいております。そちらをご覧いただいて準備に入って頂くのが望ましいですが、万が一我々側に漏れがあって案内が来ていない場合は、管轄の年金事務所にご一報いただけますと幸いです。
これから社内準備の手順を踏まれるという企業の場合、対象となる短時間労働者を確認し、従業員の方に変更点を説明するといったコミュニケーションを取りながら、今後の働き方について互いに合意を取ることが望ましいでしょう。
―― 2024年10月には、51人以上の企業も対象となります。
若林 これからご準備をよろしくお願いいたします。
また、施行期日より前に労使合意によって企業単位で短時間労働者の方を社会保険に加入させる「選択的適用拡大」を実施していただいた場合は早期の任意加入が可能となります。加えて、「選択的適用拡大」を実施していただいた場合、適用拡大に積極的に取り組む企業として、先ほど紹介した「中小企業生産性革命推進事業」における「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」の申請要件の緩和や審査での加点の対象となり、これら補助金を受けやすくなります。
このように、2年後を待つことなく早倒しすることによるメリットもありますので、是非ご検討ください。
―― 最後に、対象企業であるに関わらず手続きをしなかった場合、罰則などはあるのでしょうか。
若林 法律上はいくつかの罰則に該当します。しかしながら、我々としては罰則を科すことが目的ではなく、きちんと加入していただくことで労働者の将来の安心につなげていただくために、制度通りの適用を目指していただきたいと考えています。
万が一、期日までに届けが間に合わなかった場合も、さかのぼって適用していただくこともできますので、その場合は管轄の年金事務所までご連絡をください。
社会保険の完備は労働者に向けてのプラスのメッセージにもなります。ビルメンテナンス業界全体で足並みをそろえていただくことで“労働者にやさしい業界だ”という認知となり、業界にとってより一層の活性に繋がる。そんな良い機会であると、前向きにとらえていただきたいです。
「月刊ビルメン」2020年9月号に掲載された社会保険適用範囲拡大に関する特集記事はこちら